関根は最近の快の授業態度や友だちへの対応、
委員会活動そして、部活動への取り組みが
めだってなげやりになってきているということを、ぽつりぽつりと話し出した。

「・・・今のところ、何か特別に悪さをしているとかいうんではないんですが・・・
快くんはふだんから真面目で、なんでも一生懸命取り組んでる子だったんです。
それが、最近では授業中の発言は一切ないし、ノートも取らない、
授業に出ている先生方から「笠松はどうしたんだろう」という声があがってましてね。

あんなに熱心だった部活動もこの頃では
やる気が感じられないと、顧問が言うんです。
快くんは2年生ながらレギュラーになっていたんですが、
このままだと郡市大会ではメンバーにいれるわけに
いかなくなってしまいそうなんです。

学校では特に思い当たることもないのですが・・・」

関根も原因をさぐりかね、困惑している、そんな感じだった。

関根は蛍には言わなかったが、実は快はすでに職員室に3回も呼び出されている。
レベルとしてはいずれも2程度の軽いものだった。
レベルとは、
職員の間で暗黙の了解ができている放送での呼び出しのレベルだ。
「2年5組の○○くん、職員室まで来てください。」
「2年5組の○○くん、職員室まで来なさい。」
「2年5組の○○、すぐ、職員室に来なさい。」
「2年5組の○○、大至急、職員室に来い。」
レベル5になると、放送で呼び出しなどというものでは済まなくなり、先生が直接お出迎えに行く。
呼び出しをする先生によっては、たとえレベル1であっても
生徒にとっては十分な脅威だ。
そして、生徒は放送で誰かが呼ばれるたびに、呼び出しの内容をあれかこれかと推測する。

こういうことは親にはなかなか伝わりにくい。
タバコを吸ったとか、バイクを乗り回したとかいう、
明らかな法律違反があれば、親を呼び出して注意することもできる。
だが、日常のささいなことでは親には連絡をしない。
通知票も最近では悪いことは一切書かないから
先生が危機感を持っていても親には伝わらないことが多い。
そして、親が気づくころにはかなりきつい状況になってきているのだ。

だから、関根のように早い段階で親に連絡を取ったというのは
蛍にとっては喜ぶべきことなのである。

裏を返せば、それだけ快が先生達から心配され、期待されているとも言える。

しかし、蛍にとっては呼び出されたという事実だけで十分であった。
関根から聞かされた快の学校生活は、6月の面談で聞かされた快の生活とは
明らかにちがったものになっていた。

あれから1月もたっていないのに・・・。

「中学校の3年間は劇的に子どもが変わるんですよ。
特に、2年生は受験までまだ間がありますし、学校にも慣れてきて、
中だるみの時期でもあるんです。
つい、眉毛をそったり、タバコを吸ったり、バイクを乗り回したり、
よからぬことをしでかすというのはよくあることなんです。

ただ、快くんの場合、2年生なのにレギュラーでもあるし、
まだ、中体連の郡市大会も終わってないこの時期ですから、
目標がないわけではない。
一般的な事例が当てはまるとは考えにくいんです。
だから、何か心にかかることがあって集中力を欠いているのではないかと・・

このことでは私だけでなく、
サッカー部の顧問の笹岡も本当に心配しているんです。
・・・・お母さん、なにか、思い当たることはありませんかね。」

そこまで話すと、関根は探るように蛍を見つめた。
蛍は黙って首を振った。

「そうですか・・・
まあ、私たちも笠松くんには期待していますので、
きっと一時的に荒れているだけだと思いたいんです。
おうちでも様子を見てあげて、気になるようなことがありましたら、
遠慮なくご相談ください。」

そろそろ次の授業が始まるのだろう。言いながら関根が腰をあげた。

蛍は何度もお辞儀をして関根にお礼を言うと、会議室を出た。

駐車場まで逃げるように足早にやってくると、蛍は車に乗り込んでため息をついた。

疲れがどっと押し寄せる。
ただの面談だって学校に来ると緊張して疲れるものだが、
今回は特別だった。

快、いったいどうしちゃったの?

蛍にはわけがわからなかった。
息子が急に遠いところへ行ってしまったような気がして
蛍はたまらない気持ちになった。

それが昨日のことだった。


                            
                                           つづく
                         第4章
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